多発性嚢胞腎(ADPKD)は進行性の病気です。日本では31,000人いるといわれており、約4,000人に1人が患っていると推定されています。正式には常染色体優性多発性嚢胞腎といいますが、最近ではADPKDとも呼ばれています。
ADPKDは、腎臓の中の嚢胞の数が増えたり、嚢胞が大きくなることによって、正常な腎臓の組織が減っていきます。30~40歳代までは、多くの人が無症状ですが、腎臓の機能は徐々に低下し、70歳までに約半数は「人工透析」が必要になるといわれています。病気の発症年齢、末期腎不全になる年齢などは、個人差が大きく、同一家系内でも異なります。
正常な腎臓は表面が平坦で、大きさは握りこぶし大ぐらいです。病気が進行すると表面は凸凹になり、大きさは数倍になります。またADPKDは、遺伝性の病気です。遺伝性の疾患の中では発症率が高いことが知られています。両親のどちらかから、変異を持つPKD遺伝子を受け継いでいると、性別に関係なく50%の確率で遺伝する病気です。
問診 | 自覚症状(血尿や腹痛など)、病気の既往や家族歴についてお聞きします。 |
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身体所見 | 血圧、腹囲の測定、心音、浮腫などを診察します。 |
尿検査 | たんぱく尿・血尿などの有無を検査します。 |
血液検査 | 血清クレアチニン値を測定し、推定糸球体濾過値を算出し、腎臓の機能を調べます。 |
画像検査 | 超音波検査(腹部)、CT(腹部)、MRI(腹部)によって、腎臓や肝臓の大きさ、嚢胞の数、大きさなどを調べます。 |
嚢胞があっても、多くの人は30~40歳代まで無症状で経過します。嚢胞がある程度大きくなってくると、様々な症状が見られるようになります。
腹痛・腰痛・背部痛 | 4~6週間以上続く毎日の痛みがあるといわれています。痛みの原因は腫大した腎臓、あるいは大きな嚢胞により、腎臓をおおっている膜が伸ばされるためと考えられています。 |
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血尿 | 嚢胞の細い血管からの出血などによって引き起こされるものです。 |
腹部膨満感 | 嚢胞が著しく大きくなり、胃や腸を圧迫するため食欲がなくなる場合があります。 |
嚢胞出血 | 痛みを伴うこともあり、血尿の原因にもなります。 |
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嚢胞感染 | 嚢胞や腎臓への細菌の侵入によって引き起こされ、痛みとともに発熱を伴います。 |
肝嚢胞 | 肝臓は腎臓に次いで嚢胞ができやすい部位です。肝臓があまりにも大きくなると腹部膨満症状が非常に強くなることがあります。 |
高血圧症 | 多くの患者さんで腎機能の低下が認められない時から出現するとされています。 |
脳動脈瘤 | 脳動脈瘤とは、脳内の動脈にできた異常な膨らみ(こぶ)のことです。破裂すると、くも膜下出血を起こし、生命にかかわる恐れがあります。 |
心血管障害 | 心臓や血管の病気を合併することがあります。 |
尿路結石 | ADPKDの患者さんでは、一般より尿路結石ができやすく、きわめて強い、右か左に偏った背部痛や腹痛が代表的な症状です。 |
抗利尿ホルモンであるバソプレシンは嚢胞を増殖する作用があります。このバソプレシンの機能を抑える薬がトルバプタン(サムスカ)というお薬です。
日本を含む世界15か国で治験が行われ、その結果を受けて、2014年3月末に、日本国内において、多発性嚢胞腎の治療薬として認可されました。嚢胞が大きくなるのを抑制することが証明された初めての治療薬です。
このお薬はどの病院でも処方することができず、処方する資格を持った医師のみが処方できます。そのため、内服を希望する患者さんには、専門医への受診をお勧めします。また、初めて内服を始めるときには、入院が必要です。
腎機能の悪化を抑制するためには、血圧を適正に保つことが重要です。過剰な塩分摂取や肥満、喫煙、運動不足などは高血圧を助長するため、生活習慣を見直していくことから始めます。それでも血圧が下がらないようであれば、降圧薬の服用が勧められます。
ACE阻害剤、もしくはARBという種類の降圧剤が推奨されます。
多発性嚢胞腎では、約半数の患者さんが70歳までに腎臓の機能がとても悪くなり、老廃物や余分な水分を排出することができなくなり人工透析を必要とします。
透析療法以外の選択肢として腎臓の移植術があります。腎臓の移植には献腎移植(死体腎移植)と生体腎移植があります。
サムスカ(トルバプタン)の治療も受け入れております。ご相談ください。