今までの大きく切開する開腹手術と違い、お腹に孔を数ヵ所開ける腹腔鏡下手術は、低侵襲性(体に負担をかけない)に優れた手術法として、すっかり定着しています。通常は4~5つの孔が必要ですが、とうとう一つの孔で手術が行えるようになりました。
単孔式腹腔鏡下手術です。お腹に空けた一つの孔で、手術を行う。さて、それはどんな手術法でしょうか? 当院外科、松尾亮太院長先生にインタビュー形式で答えていただきました。
腹部に5~10mmの孔を複数空け、内視鏡(カメラ)を挿入して腹腔(お腹の中)を観察しながら手術します。 胆嚢の摘出手術で説明すると、まず、中を見やすく作業がしやすいように、お腹の中に炭酸ガスを入れて膨らませ、胆石を取り出すための10ミリのポート (樹脂製の筒)1本と、カメラや鉗子(挟んだり引っ張ったりする手術具)、メスを先端に装着した5mmのポート3本、計4本のポートを挿入します。
そうです。カメラでお腹の中の様子を見ながら、患部を切り取る、体外に取り出す、縫い合わせる、などの手術をします。開腹(お腹を切り開くこと)しませんから、手術跡は、ポートを挿入した2cmほどの孔の跡が4か所だけ。出血も少なく、体への負担が少なく、入院期間も3泊4日ほどで済みます。
おへそに2cmの孔を空け、特殊な機械で広げてポートを1本だけ挿入し、そのポートを通して5mmのカメラ1本と鉗子2本を入れ、それを操作して手術をします。それを単孔式腹腔鏡下手術といいます。
ご心配なく(笑)。最終的におへそを形成し直して閉じます。手術の傷跡はおへその中に隠れ、手術したことがわからない、そういう手術なんです。
それどころか以前よりきれいなおへそになります。女性には縦長のおへそが人気ですが、そんな風にもできます(笑)。 ある年配のご婦人は、でべそが気になっていたけど、きれいなおへそになったと感謝されました(笑)。これを整容性といいます。
いま話題になりました整容性。胆石は男性より女性に多いので、整容性は大きなメリットでしょう。2つ目は傷口が1ヵ所で済む。3番目は傷が小さいため、術後の経過が良好。その結果、4番目は入院期間が短いということですね。健康保険が適用されるのも、うれしいですね。
急性胆嚢炎の場合ですと、だいたい胆石の発作を起こしてここへ来ますので、その日か、その翌日には手術をします。3日目か4日目には退院ですね。
1か所の孔での操作になるので、高度な技術が必要なことですね。手術できる医師が少ないということ。複数ポートの経験が豊富で、なお単孔式のトレーニングが十分な医師でないと、できない技術です。幸い私は、腹腔鏡の幅広い経験もあり、単孔式も研究会等でトレーニングも十分できました。
当病院の消化器外科の手術件数は、年間約600件のペース。胆のう手術では年間100件といったところです。私個人の経験では、胃がんや大腸がん、肝臓や膵臓、胆のうなど、幅広く内臓疾患の手術をしてきましたし、20年の医師生活で、腹腔鏡下手術は800例ほどあります。
第2のデメリットは、手術時間が長いという点でしょうか。1ポートを使っての手術ですから、4ポート、5ポートより時間はかかります。
一般論ですが、通常の4ポートの1.5倍から2倍。胆のうの手術は4ポートで40分から1時間くらいなので、2倍の手術時間がかかるならば「従来の4ポートで」という患者さまもいるでしょうね。
これをカバーするのは、技術レベルを上げて時間を短縮するしかありません。当病院では、技術力アップに勤め、今では従来の4ポートと遜色ない手術時間にまで短縮させています。 4ポートの手術時間で35~40分くらい、単孔式では45~60分くらいでしょうか。手術前の患者さまには実際よりやや長めの手術時間を伝えています。最近の例では30分、条件がよかった時で最速18分というレコードもあります(笑)。
もちろん早いだけでなく、安全・安心・確実もおろそかにはしていません。医療技術の向上とともに、手術中の出血を極力少なくし、ほとんど無血の手術をしています。
出血すると、洗浄システムで出血個所に水を送り出して洗い流し、水を吸引します。無血なら、洗浄システムは不要となり、患者さまの身体的負担の減少と医療コストの軽減になります。
現在は胆嚢の手術と虫垂炎(盲腸)です。単孔式のメリットが一番発揮できる手術法ですね。急性胆嚢炎の早期手術に適用しています。胆石の発作(急性)を起こして当病院へ来ますが、72時間以内なら単孔式腹腔鏡ですぐに手術しよう、というものです。 それと虫垂炎の予防的手術を加えたいですね。初期の虫垂炎は薬で抑えますが、30%の方は再発します。早く手術で摘出してしまえば、もう虫垂炎とはサヨナラです。
胆のうと虫垂炎以外は、今のところ考えていません。手術は、その症状、状態にあわせて最適の手術法を選ぶべきです。その時、大事なことは何よりも安全であること、的確であること、術後に危険の可能性を残さないこと、患者さまの希望に添うこと。私はこれをモットーにしています。 こんな例があります。大腸がんを「単孔式でやりました」というリポートでは「手術時間は6時間だった」と。先日当病院では、S状結腸の進行がんを5ポートで2時間30分でやりました。1ポート(単孔式)で6時間、5ポートで2時間30分、患者さまにとってどちらがいい手術法でしょうか。5ポートはすでに確立した安全で確実な手術法であり、患者さまの身体的な負担が少ないんです。
中には単孔式で手術時間10時間なんてのもあります。無茶ですよ。私は、手術法にはこだわりません。単孔式で始めても、難易度が高いと感じた時、容態が急変した時など、安全を最優先して躊躇なく3ポート、4ポートに変更します。幸い、まだそういう経験はありませんが…。
そう、必要に応じて外科医の功名心は捨てて、ポートを増やし、それでも危ない時は開腹手術に移行する、そんな覚悟が必要だと思います。単孔式は数ある手術法のうちの一つ。症状、病気の種類、手術の場所、患者さまの要望・・・など、バランスよく総合的に考えて、手術法を選ぶべきですね。