膀胱の筋肉まで達した膀胱がんや、BCG膀胱内注入療法などの薬物治療が効きづらく悪性度の高い筋層非浸潤性膀胱がんに対する標準治療は膀胱全摘除術です。近年膀胱全摘除術においても、ロボットによる手術を行うことが可能になりました。従来行っていた腹腔鏡手術と異なり、人間の手の関節以上に自由度の高いロボット鉗子を用いることで、膀胱周囲組織の精密な切開や、膀胱の摘出、リンパ節郭清などの手技をより正確に早く行うことが可能です。また、腹腔鏡手術と同様に傷口が小さいため、術後の痛みが少なく、患者さんの社会復帰も早めることが可能になりました。ダビンチによるロボット支援下膀胱全摘除術は、開腹手術と腹腔鏡手術の利点を合わせ持った術式と言えると思います。
近年は浸潤性膀胱がんに対して膀胱全摘除術を行う前に、抗がん剤治療(術前補助化学療法)を行うことが推奨されています。進行した膀胱がんの場合には、膀胱全摘除術を行っても治癒率は約30~50%と必ずしも高くありませんが、膀胱全摘除術は大切な治療方法のひとつで、病期や悪性度が悪かったり、ひどい血尿のコントロールが必要なときにも行われます。
また、手術後に化学療法を追加することが予後を改善する可能性もあります(術後補助化学療法)。
膀胱全摘除術で膀胱を摘出するときには、尿の出し方を変えることが必要になります(尿路変更術)。小腸や大腸を使って手術前と同じように自然に排尿する方法(自然排尿型代用膀胱)および、尿管を小腸へ付けてお腹に出して袋(ストーマ)に尿を集める方法(回腸導管)が標準的な方法です。
切り離した小腸や大腸をつなぎ合わせて膀胱の代用となる袋を形成します。
回腸(小腸の一部)を切り離し、尿管をつなぎます。尿が常にお腹から出ている状態になるため、尿をためておくストーマ袋を付ける必要があります。
当院ではどちらの方法も行うことが可能です。自然排尿型尿路変更術の方が、手術時間、入院期間が長くなります。入院期間は回腸導管で3週間程度、自然排尿型代用膀胱で4週間程度です。回腸導管はお腹にストーマができるため、見た目が気になる方には向きませんが、慣れると問題なく生活することが可能です。自然排尿型代用膀胱は、お腹にストーマはありませんが、尿意がなくなることや、膀胱結石形成などの合併症が問題になることがあります。
どちらの尿路変更術が適しているかは、患者さんの年齢や性格、患者さんの全身状態や、腎不全、糖尿病などの有無、膀胱がんの存在部位などで判断する必要があります。尿道にがんがある、多発する上皮内がんなどは自然排尿型代用膀胱の適応外となります 。
手術前に主治医とよく相談し、患者さんに最適な方法を決めます。