アルツハイマー型認知症は、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症のいわゆる3大認知症の中で最も多く、全認知症の約6~7割を占めるといわれています。
発症の原因として、脳内にアミロイドβやタウ蛋白と呼ばれる異常なタンパク質が蓄積し、神経細胞の機能障害や細胞死を引き起こすことが考えられています。しかし、これらの蓄積メカニズムや発症に至る詳細なプロセスは、現在も研究が続けられています。
アルツハイマー型認知症は、特徴的な症状である物忘れを中心に、数年から十数年かけてゆっくりと進行します。初期には軽い記憶障害が目立ちますが、進行すると日常生活の遂行が困難になり、徘徊や被害妄想、怒りっぽくなる、うつ症状などの精神・行動面の変化が見られることがあります。さらに進行すると、会話や運動機能にも影響が及び、最終的には介護が必要な状態となることが多いです。
当院では、認知症治療薬「レカネマブ(レケンビ®)」「ドナネマブ(ケサンラ®)」を用いた治療を行っています。これらの薬剤は、アルツハイマー型認知症の発症・進行に深く関与するアミロイドβを標的とした抗体医薬であり、脳内に蓄積したアミロイドβを除去することで、認知機能および日常生活機能の低下を遅らせる効果が期待されています。
これらの治療薬は、すべての認知症患者に適応されるわけではなく、臨床診断に加え、アミロイドPET検査や脳脊髄液検査などの客観的な検査結果によって、厳密な適応基準が定められています。そのため、治療開始前には詳細な診断と評価が必要です。
両方の薬剤が投与可能と判断された場合は、患者さんの希望に応じて薬剤を決定します。
項目 | レカネマブ(レケンビ®) | ドナネマブ(ケサンラ®) |
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薬剤が作用する標的 | プロトフィブリル | アミロイドβプラーク |
来院頻度 | 2週間に一度 | 4週間に一度 |
投与期間 | 原則18ヶ月 | 原則18ヶ月(投与開始後12か月のアミロイドPET検査で アミロイドβプラークの除去が確認されると投与終了) |
MMSEテストスコア※ | 22~30点 | 20~28点 |
※MMSEテスト(ミニメンタルステート検査)は認知症の疑いがあるときに行う神経心理検査テストです。
脳神経内科の戸田 晋央医師もしくは紺谷 智医師の外来をご受診ください。 レカネマブ(レケンビ®)、ドナネマブ(ケサンラ®)の投与対象はアルツハイマー病による軽度認知症害または軽度認知症に限定されます。すなわち、アルツハイマー病以外による認知症の方や、アルツハイマー病による認知症であっても進行している方は、受診の結果、投与対象外と判定される場合があります。投与対象の可能性があり、投与を希望される場合は、レカネマブ(レケンビ®)、ドナネマブ(ケサンラ®)投与を専門的に検討する検査を受けていただきます。
脳神経内科の診療内容や対応疾患について詳しくは、脳神経内科の詳細ページをご覧ください。
レカネマブ(レケンビ®)およびドナネマブ(ケサンラ®)の投与対象は臨床診断に加えて、様々な検査によって厳格に規定されています。特に重要なのが、脳へのアミロイドβの蓄積が認められることと、副作用リスクの高い特有の脳MRIの異常がないことです。アミロイドβの蓄積を証明する検査として、アミロイドPET検査と髄液検査があり、どちらか一方を受けていただきます。当院ではどちらの検査も比較的早く実施可能です。また、過去にMRI検査を施行したことがあっても、改めて脳MRI検査を受けていただきます。専門医がこれらの検査を、それまでの検査結果等と合わせ、総合的に検討し、レカネマブ(レケンビ®)もしくはドナネマブ(ケサンラ®)の投与の対象に該当するか否かを判断します。投与対象となった場合、外来で投与を開始します。
◆レカネマブ(レケンビ®)の場合
本剤は2週間に一度の頻度で通院いただき、静脈点滴により投与します。初回の投与後は、安全を確認するため、1日程度入院していただきます。投与後に発熱や関節痛などのアレルギー反応がみられる場合があるため、必要に応じて解熱鎮痛剤を処方します。また、投与開始後6か月程度の期間は、脳浮腫や脳出血といった副反応が発生する可能性があるため、定期的な脳MRI検査を実施します。
◆ドナネマブ(ケサンラ®)の場合
本剤は4週間に一度の頻度で通院いただき、静脈点滴により投与します。初回の投与後は、安全を確認するため、1日程度入院していただきます。投与後に発熱や関節痛などのアレルギー反応がみられる場合があるため、必要に応じて解熱鎮痛剤を処方します。また、投与開始後6か月程度の期間は、脳浮腫や脳出血といった副反応が発生する可能性があるため、定期的な脳MRI検査を実施します。