肺がんとは,肺の中(気管支や肺胞)の細胞が何らかの原因でがん化したもので,進行すると周囲の組織を壊しながら進行し,血液やリンパ液の流れに乗って転移することがあります.初期には症状がありませんが,進行すると咳や痰,血痰,動いた時の息苦しさなどの呼吸器症状や転移した部分の症状を認める場合があります.これらの症状は肺がんだけに生ずるものではありませんが,当院ではがん以外の肺の疾患の診療も行っています.気になる症状が続く場合は早めに受診をしましょう.
検査の結果,がんが疑われた場合はさらに詳細な検査をお勧めします.
レントゲン,胸部CTで腫瘍が見つかった場合,まずは悪性腫瘍(肺がん)であることの確認や、どのようなタイプの肺がんか(肺がんの組織型)を診断します.肺がんは様々な組織型に分かれており,それぞれで治療方法が異なることがあります.肺がんは小細胞がん,腺がん,扁平上皮がん,大細胞がん,その他の組織型に分かれます.当院では気管支鏡検査,CTガイド下肺生検,外科的肺生検の3つの検査を行っています.それぞれメリット,デメリットがあるためご本人に最も適した検査方法をご提案します。
上記の検査で肺がんと判明した場合,肺がんの進行度(転移の有無)を調べるための検査を行います.この検査は,場合によっては肺がんの診断と並行して(肺がんと確定していない段階で)行うことがあります.肺がんが転移しやすい部分は,胸の中のリンパ節,もう片方の肺,肝臓,副腎,骨,脳などです.これらの転移しやすい部位を調べるため,胸部~骨盤のCT、脳MRI、PET-CTを行い,1期~4期で表される病期(進行度)を決定します.
肺がんを発症した原因を調べるためにがん遺伝子の検査や,がん免疫の状態を把握するためにPD-L1という分子を測定します.特定のがん遺伝子の有無のみを検査するもので,代々受け継がれた遺伝情報を検査することはありません。
手術を行う場合など,必要に応じて心臓や肺の働き(予備能力)を測定します.
胸にX線を当て胸部を撮影し,がんを疑う陰影がないかを調べます.簡便で被ばく量も少ないため,健康診断などでも広く普及している検査です.
からだの周囲からX線を当て,からだの断面を画像にします.レントゲン検査よりも精度が高く,初期の小さながんや他の臓器に隠れたがん,腹部のがんも発見することができます.レントゲンで見つかった肺腫瘍の詳細や,がんの転移の有無を調べる場合に行います.造影剤という薬物を注射しながら検査することがあります。
強力な磁力を用いてからだの断面を画像にします.CTでは正常な組織と区別がつきにくい脳に転移がないか調べるために行います.15分~45分程度狭い検査装置内で安静にする必要があり,閉所恐怖症の方は検査が難しいことがあります.造影剤という薬物を注射しながら検査することがあります.
FDGという薬剤を注射した後に,からだの中のFDGの分布を画像にします.がん細胞に取り込まれたFDGの分布を調べることによって,他の部位への転移の有無を調べることができます.PET/CTについてはこちらをご覧ください。
肺がんの診断のために行う検査です.仰臥位で口から気管支鏡(肺のカメラ)を挿入し,レントゲンで位置を確認しながらがん組織を採取します.がんの大きさや位置によっては, EBUS-GS法を用いて,病変の位置を特定しながらより高い確率でがんの診断を行います.また,EBUS-TBNA法やEUS-B-FNA法により,従来の方法では気管支鏡が到達することができなかった縦隔リンパ節や縦隔にあるがん組織を採取することも可能です.ほとんどの場合,痛み止めや鎮静剤を注射しながら苦痛なく検査を行っています.
出典:オリンパス「メディカルタウン」
出典:オリンパス「メディカルタウン」
気管支鏡では診断が難しい肺がんの診断のために行います.CTを撮影しながら,からだの表面から生検針を穿刺しがん組織を採取します.
気管支鏡では診断が難しいケースでは,全身麻酔の手術を行い確実に肺がんの診断を行います.
肺がんの病期や組織型や患者さんの状態をもとに適切な治療をお勧めします. がんを治すための手術が可能な場合は,原則的には手術をお勧めしています.手術が難しいケースでも,放射線治療による根治が望める場合は,化学放射線療法(抗がん剤治療と放射線治療を組み合わせた治療)をお勧めします.進行した肺がんの場合は,抗がん剤,分子標的薬,免役チェックポイント阻害薬などの薬物を投与し,がんの縮小や,進行の予防を目指した治療を行います.がんによる症状がある場合には,痛み止めや症状の原因となる部分への放射線治療なども併せて行います. 肺がんは他のがんに比べて亡くなる方が多く,以前は治療が非常に難しいがんと考えられてきましたが,近年では発がんメカニズムの解明,がん免疫治療の研究が急速に進んできています.その結果,治療が飛躍的に進歩し、多くの肺がん患者さんががんと共存しながら生活できるようになってきています.
当院では、肺がんに対する手術術式として、胸腔鏡を併用した低侵襲手術を基本としており、早期肺がんに対しては完全胸腔鏡下肺葉切除 / 区域切除術、リンパ節転移を伴う肺がんに対しては胸腔鏡補助下肺葉切除術、進行肺がんに対しては拡大手術、と個々の患者さんの進行具合と全身状態に応じて最適な手術術式を選択しております。
また、手術用ロボットda Vinci Xiによる「ダビンチ」手術も行っております。da Vinci Xiは高画質で拡大した視野を3次元で構成して手術を行うため、より正確・安全・複雑な手術手技が可能であり、がんの完全切除にはとても有用な手術です。当院でも「ダビンチ」手術の適応となる患者さんには「ダビンチ」手術を提案させていただきます。
手術や放射線はからだの一部分しかちりょうすることができませんが、抗がん剤は全身に行き渡るため、胸の中のがんだけではなく転移した部分にも効果があります。抗がん剤は大きく分けて殺細胞性抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬の3種類があり、がんの組織やバイオマーカーの結果などによって使用できる抗がん剤が異なります。使用できるものをすべて使い切ってがんの長期コントロールを目指します。
細胞の分裂を止めることでがん細胞を攻撃する薬剤ですが、正常な細胞も若干のダメージを受けます。多くの種類の抗がん剤が存在し、一つの抗がん剤が無効となった後も別のタイプの抗がん剤を使用することができます。
がん細胞が有する特有の分子を標的にがん細胞を攻撃する薬剤です。正常な細胞へのダメージは比較的少ない傾向があります。がん遺伝子検査の結果によって使用できる薬剤を判断します。
患者さんの免疫力を利用してがん細胞を利用してがん細胞を攻撃する薬剤です がん細胞は免疫細胞にはたらきかけ、免疫が効きにくいように免疫にブレーキをかけていますが、免疫チェックポイント阻害薬はこのブレーキを外すことで免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにします。
肺がんは手術で取りきれる場合手術を第一選択としますが、病状や患者さんの状況により、放射線単独で根治を目的とした照射を行う場合や、放射線と化学療法を併用した治療を行う場合があります。
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