脳梗塞
脳血管が詰まったり破れたりすることで発症する脳卒中のうち、半数以上が脳梗塞(脳の血管が詰まる)といわれています。脳梗塞の治療は発症してからどれだけ早く治療できるかが重要です。
※病院広報誌PLAZA IMS vol.33より記事抜粋
脳梗塞の症状
脳梗塞は脳の血管が詰まって脳の組織死んでしまうために起こる病気です。症状は様々ですが、中でも図に示すように「片側の麻痺」や「ろれつが回らない」などは代表的症状と言えます。脳梗塞の治療は、詰まった血管をいかに早く再び通せるか(再灌流)、にかかっているといっても過言ではありません。いわゆる「血液サラサラ薬」は「脳梗塞の予防のための薬」であって「脳梗塞の治療薬」ではありません。
脳梗塞の治療
t-PA静脈療法
血管に詰まった血栓を溶かす薬剤(血栓溶解剤)を点滴で投与する治療法です。日本で2005年に認可され、現在発症4.5時間以内の脳梗塞が適応となっています。この治療法は高いエビデンスを持ち、さらにその施行方法が薬剤を点滴注射するのみと比較的簡単であり、脳梗塞超急性期治療の第一選択と言えます。
脳血管内治療
カテーテル(細い管)を脳の詰まった血管まで入れて、詰まった血栓を直接取ってくる治療法です。本治療法は脳梗塞の発症8時間(症例によっては24時間)まで施行可能とされています。
高い効果を期待できるデバイスがどんどん開発されてきており、とても注目されている治療法です。カテーテルを脳の閉塞血管に誘導し、血栓除去デバイスを用いて血栓を除去したり、カテーテルから血栓溶解剤を血栓周囲に直接注射したりします。時にはバルーンやステントを使用し、血管形成術を行います。
コラム 脳神経外科のチームプレーで治療した一例
症例は71歳の男性、日本へ観光に来た中国からの観光客である。
2014/x/x 13:00 約1週間の日本滞在を終え帰国する日、ホテルで急にろれつが回らなくなり、その後左半身に力が入らなくなって倒れてしまった。救急車にて病院救急外来に搬送となった。
14:00
発症から約1時間が経過していた。左半身は完全に麻痺しており、ろれつが回らない。救急科医師の診察で脳卒中が強く疑われた。
14:15
救急科医師は頭部CTを撮影、それにより右大脳の超急性期の脳梗塞ならびに右中大脳動脈の完全閉塞と診断された。
15:00
ここまで発症から約2時間経過している。一刻も早い治療が必要であった。患者および患者家族への病状および治療の説明が必要であったが、日本語が全く通じない。
15:15
英語が堪能な病院のスタッフの通訳を交え、患者家族に病状並びに治療の必要性とそのリスクを説明した。
15:30
すぐさま血栓溶解剤(t-PA)静脈療法が開始された。しかし血栓が大きいためか薬物では血栓が溶けきれず、麻痺が改善しない!”
16:00
すでに発症から約3時間が経過していた。このままでは脳梗塞が完成してしまい、左半身に強い麻痺が残る。患者を救急外来から直接脳血管撮影室に移動。すぐに脳血管撮影を行った。やはり、血栓は溶けきれておらず、右の大脳動脈は閉塞したままであった。
16:40
脳卒中専門医ならびに脳神経血管内治療専門医による脳血栓除去術が開始された。脳血栓除去デバイス(ステントリトリバー)を用いて、血栓を除去できた。無事、中大脳動脈の血流は再開した。
17:30
ここまで発症からすでに約4時間30分が経過していた。脳組織は血流再開までの間、虚血を耐えていてくれたいただろうか。患者の左半身はまだ動かない。
18:00
ICU(集中治療室)へ患者を移動。ICUドクターとICUの専属看護師による細心の全身管理が行われた。患者の手は、足は動いてくれるだろうか。患者家族も帰国できず、そのまま病院に滞在。楽しかったはずの海外旅行がこんなことになるなんて。
20:00
発症から約7時間が経過。患者の左半身に動きがみられた。手も足も少しずつ動きが良くなり、徐々に回復してきた、やった!脳は約4.5時間の虚血に息絶えずに耐えてくれたんだ。
それから5日が経過。構音障害も改善し、麻痺はほぼ完全に回復。今後の治療を母国で受けることになり、「謝謝(シェシェ)」と涙ながら感謝の言葉を言って退院していった。
その後、無事に飛行機に乗り、母国の中国へ帰って行った。
よかった。
最悪になるかもしれなかった日本旅行が、悪かったけどなんとかよかった旅行になってくれたに違いない。
本当によかった。
おわりに
脳の血管が閉塞した後、脳組織はある程度の時間を経過し血流再開が得られないと梗塞に陥ります。一度梗塞になってしまった脳組織は基本的には再生できません。そうなる前に1分でも早い治療が大切です。
当院ではたくさんのスタッフが、訓練された迅速な動きと的確な判断で、日々このような治療を脳梗塞の患者さんに提供できるよう、万全の準備を行っております。
脳梗塞治療は最初の数時間が勝負と言われます。脳梗塞を疑った場合は、至急当院脳神経外科へご相談ください。